心の図書館

おばあちゃんありがとう

わたしの人生の中で大きな出来事の一つに、勤務先の倒産があります。

平成元年二月、当時四十二歳でした。 その会社の役員をしていた関係上、 会社の借入金についてはすべて連帯保証人となっていました。金額にして約三億円余り。当然支払えるわけもなく、自己破産をすることになりました。 その後、自宅は競売にかかり、やがて家族は出ていかなくてはいけないことになりました。

当時高校生の娘三人と妻と私は毎晩引越しの為の荷造りをしていました。 隣家にいた祖母は当時八十五歳でした。祖母は痛い足を引きずって、毎晩我々 の荷造りをしている様子を見に来ていました。その姿を見るのはとても痛々しく、私にとって大変辛いものでした。

ついに引っ越す時がきました。すべての荷物を積み終え、何の心残りもな く最後に家を出ようとした時、電話が鳴りました。 電話の相手は祖母でした。 「おばあちゃんは、おまえの新しい旅立ちにお祝いを言わせてもらうよ、オメデトウ」

いっぱい、いっぱい泣いた後の声でした。

その言葉はわたしにとって最高の励ましの言葉でしたし、祖母がどれほど 苦しんだ末の言葉であったものかと思うと、わたしは受話器をもったまま涙で言葉にならず、「ウン」とうなずいただけで受話器を置きました。

本当に祖母には心配をかけて申し訳なく思います。 今自分にも孫ができ、 祖母の苦しみがよくわかります。祖母は自分にとって大変大きな存在でした。

教えられた言葉の中に「神様は欲な心を嫌う」そして「男は、滅多なめったことで怒るものではない、男が怒るのは一生に一度」この二つが特に印象深く残っています。

その祖母が平成十四年三月、九十九歳で亡くなりました。 祖母は夢枕 に出てきて「何があっても感謝の心をもちなさい」 「過信せず、お まえは未熟だということを忘れないように」「正しい心で生きていきなさい」と、わたしに教えてくれました。

わたしにとって祖母は人生の師でした。 法要の夜、祖母は「仏」の姿で天界に昇る様を笑顔で見せてくれました。「おばあちゃんは成仏したんだ」そ の時そう思いました。

「おばあちゃん、本当にいろいろとありがとう。

いっぱい心配かけてごめんなさい。」